「……いいですねえ」
 雑踏のミルキー通り。
 様々な店舗が立ち並ぶその通りの片隅で、武内ミーナは、ブライダルセンターのウィンドウディスプレイを眺めていた。
 透明なガラスには、彼女の褐色の肌がうっすらと映り込んでおり、
 その奥では、その濃い目の色とは対照的な純白のウェディングドレスが飾られている。
 
 彼女はそのウェディングドレスを五分以上は眺めていた。
 目尻を緩めながら眺めてはいる。
 だが……
 
「……あっ。……はあ」
 ふとした拍子に彼女の焦点がウェディングドレスから離れ、
 その前のガラスに映っている自分に移ると、その度に重いため息が零れる。
 
 
 
 
「ミーナさん、もう来てたんだ」
 不意に声を掛けられた。
 振り返ると、背後には主人公がいた。
 ミーナは体を主人の方に向けると、もう一度ちらと横目でウェディングドレスを一瞥してから頷く。
 
「はい。少し早い電車しか無かったですから、その分早く着きました」
「そっか。待たせちゃってすみません」
 主人が後頭部をぽりぽりと掻く。
「気にしないで下さい。まだ約束の時間になっていないですから」
 一方のミーナは、ゆっくりと顔を横に振って笑顔を見せる。
 
 彼女の頬は、僅かに赤らんでいた。
 
 
 
 
 
 デート、である。
 デウエスとの一件が片付いた後も、デンノーズの面々はネットとリアルの両面で親交を深めていた。
 武内ミーナも例外ではなく、元々は自分の仕事の為に参加したチームではあったが、
 ネットでの交友というものを初めて経験したミーナにとって、それは実に新鮮で心躍るものであり、
 今では純粋な楽しみとして、ツナミネットに興じていた。
 
 その友人の中でも、主人は若干特別な存在であった。
 そもそも彼と初めて顔を合わせたのは現実世界であり、何度か自身の仕事を手伝って貰った事がある為か、
 少し突っ込んだ話をしあう事や、こうして息抜きに遊びに出る機会も多くあった。
 
 主人は、穏やかで気遣いのできる優しい人であった。
 彼と会話を交わすだけで、仕事で受けた精神的なダメージが癒されるのを感じていた。
 それは、権力者達との果てなき戦いを繰り広げてきたミーナにとっては、何事にも代え難い安らぎである。
 その様な交流を幾度となく積み重ねた為に、彼女は主人に惹かれるのにそう時間は掛からなかった。
 
 
 
 
 
「ミーナさん、さっきまでウェディングドレス見ていたんですか?」
 主人がミーナの背後を覗き込みながら尋ねた。
「あ……」
 一瞬、言葉に詰まる。
 ミーナはまだ、自身の好意を主人に伝えていなかった。
 これを着た自分と、タキシードを着た主人の姿を想像していたとは、とても口にできない。
 
 
「……ええ。
 やっぱりウェディングドレスって女性の憧れです。
 でも、私の肌色には似合わないかもしれませんね」
 適当に誤魔化す。
 だが、実際に気にしている事でもあった。
 肌が露出している自身の手の甲を前に突き出して苦笑してみせる。
 
「ううん、そうかな?」 
 主人はそんなミーナを笑う事はなかった。
 僅かに首を傾げ、突き出された手の甲とウェディングドレスを交互に眺める。
 
 
「……うん。やっぱりそんな事ない。
 むしろコントラストが鮮やかで、どちらも栄えると思いますよ。
 特にミーナさんの肌は綺麗ですし。俺、好きですよ」
 温和な笑顔を浮かべてそう口にする。
 
 無論『肌が好き』という事なのだろう。
 それでもミーナは肩が震えた。
 天然たらしめ、という言葉を飲み込み、動揺を悟られないように顔を横に向ける。
 
 
 
「でも、仮に似合ったとしても、着せてくれる人いないですから」
 努めて冷静な声を出す。
 心臓が強く鼓動する。
 彼がどの様な表情をしているのか気になり、ちらちらと視線を正面に向けては、再び泳がせた。
 着せてくれる人がいない。だから、着せてほしい。
 彼は、その心情を察してくれるだろうか……
 
 
 
 
「あらら。そうなんですか」
 然程興味のなさそうな、そっけない声。
 ちら見を止め、彼の表情をしかと視界の中央に持ってくれば、締まりのない顔つきがそこにはあった。
 なーんじゃい。
 
 
 
(……気づいて下さいよ、もう!)
 僅かに眉をひそめる。
 内心、がっくりと肩を落とすミーナであった。
 
 
 
 
 
 
 
パワプロクンポケット12
 
おとぎ話みたいに
 
 
 
 
 
 
 この日は、ミーナが前々から気になっていた映画を観に行く予定となっていた。
 映画を観て、ウィンドウショッピングを楽しみ、空腹を感じた所でレストランで昼食。
 そして再びあてもなくミルキー通りを練り歩く、ごくごく普通のデート。
 
 いつも通りに楽しい時間ではあった。
 だが、二人の間柄もいつも通り。
 一緒にいるだけでも楽しくはあるが、この所それでは少々物足りなくなってきた。
 ミーナにとってそれが今一番の悩みである。
 
 自分から好意を打ち明ければ良いだけの話ではある。
 しかし、それが容易にいかないから恋愛とは難しいものである。
 恥ずかしい。とてつもなく恥ずかしく勇気を要する。
 加えて言えば、主人公の告白を聞きたいという受け身としての欲求もあった。
 
 
 
 
 ――そして夕方。
 この日は主人が夜間勤務を控えていた為に、デートは陽が暮れるまでという事になっていた。
 
「じゃ、今日はこの辺で。今日は楽しかったです。
 帰り道、気を付けて下さいね」
 駅のコンコース。
 主人は軽く手を振ってミーナに挨拶を終えると、駅の改札口に足を運ぼうとする。
 
「あ……主人さん!」
 ミーナは、そんな主人を唐突に呼び止めた。
 
 楽しい時間ではあったが、収穫のないデートでもあった。
 ならば、このまま終わるわけにはいかない。
 次回に繋げなくてはならない。
 
 
 
「えっと、その……来週末は空いてませんか?
 ちょっと気になってるご飯屋さんがあったり……して……」
 両手を体の後ろで組む。
 そして、やや上目遣い気味に問い尋ねる。
 理由はなんでも良かった。
 
 
 主人はその言葉を受け、暫し考え込んだ。
 が……すぐに、申し訳なさそうに眉を下げて、首を左右に振る。
 
「……あー、その日はちょっと………ごめんなさい。
 またそのうち、という事でも良いでしょうか?」
 はっきりとしない理由。
 だが、断られた事だけは明確であった。
 
 
「そ、そですか。でしたら仕方ありませんね。
 急な提案ですみませんでした。ではまた今度です」
 余計な気を使わせないよう、ミーナは笑顔を浮かべて手を振った。
 それを受けて、主人が今度は首を縦に振り、改札口の奥に消えていく。
 
 そして、彼の姿が完全に見えなくなって……
 
 
 
「………はあぁ〜あぁ」
 
 
 
 ミーナは重い嘆息を零した。
 同じく重い足取りで、駅から離れる。
 結局この日も、最後までいつも通りであった。
 
(私、ただのお友達、なのでしょうかね)
 
 デート中の主人の笑顔を思い浮かべながら、そう考える。
 その次に脳裏に浮かんだのは、あのウェディングドレスであった。
 
 子供の頃、親戚の結婚式で目にしたウェディングドレスは輝いて見えた。
 それを纏っていた親戚も、まるで天使のように見えたものだ。
 女性として一度は着たいと思う憧れの衣装。
 しかし、それは一人で着れるものではない。
 物理的には一人で着る事が出来ても、何の意味も成さない。
 
(……こんな事じゃ、ウェディングドレスどころか、主人さんと付き合う事だって夢のまた夢ですね。
 年齢だって離れているし……)
 彼女はもう一度、重く嘆息した。
 
 
 
 
 
 
 そんな事を考えながら、一時間ほどかけて自宅アパートに帰り着いた。
 部屋の鍵を開けて玄関に入り、鍵をハンドバックに戻そうとした所で、ハンドバックの中に入れていた携帯のランプがついている事に気がつく。
 手に取ってみると、気がつかないうちにメールを受信していた。
 送信者名には『パカーディ・ハイネン』の文字が表示されている。
 
 デンノーズのチームメイトの中で、主人公の次に仲の良い相手がパカであった。
 とある事情から落ちぶれてしまった彼女の面倒をみるうちに、同性という事もあって仲良くなり、
 主人同様に、現実でも一緒に遊びに出かける事が多々ある関係である。
 
 
「あらら、なんでしょうか」
 そうは口にするものの、彼女からメールが届く時の要件はいつも同じだ。
 靴を脱ぎながらメールの本文を開く。
 出てきた文面は、予想通りのものであった。
 
「『来週末一緒に遊びに行かぬか?』……ですか。
 そうですね。来週末はフリーになっちゃいましたから」
 一緒に遊びたいという嬉しい申し出である。
 だが、このタイミングでの来週末の誘いには思わず苦笑が漏れた。
 
 
 歳はそれなりに離れているものの、裏表のないパカに対しては、友人として好意を抱いていた。
 その結果として、主人にはできない話……主人との間柄について話を聞いてもらう事もある程に、彼女とは交友を深めている。
  正確には、『女の子の話題』を好む彼女の方から、突っ込んで詮索してくれているのだが、それはどこか心地良いものであった。
 
「……また、お話聞いてもらいましょうか。うん」
 ミーナはこっくりと頷いて、返信を打ち込みはじめた。
 
 
 
 
 
 
 一週間後。
 パカは、ミルキー通りの一角を歩いていた。
 ニヤニヤとした笑みを浮かべる彼女の歩調は、若干早いものである。
 約束通り、この日パカと遊ぶ事になっていたミーナもまたそれに続いて歩いていたのだが、
 こちらはどこか釈然としない表情を浮かべていた。
 
 
「あの……ところで、そろそろどこに行くのか教えてもらえませんか?」
「まあまあ、着いてからのお楽しみじゃ。ほれ、もう少し歩くぞい」
 首を傾げながら、そう返答を返すパカについていく。
 ミーナはもう、この質問を何度も投げかけていた。
 だが、パカはその度に答えをはぐらかし、答えてくれない。
 
 彼女と遊びに出かけて、このような事は初めてであった。
 目的が分からず歩くのはどうにも落ち着かなかったが、
 おそらくパカにも何かしらの考えがあるのだろう、と思う事にした。
 
 
 
 
「ほれ、ついたぞい!」
 歩き続けて十分程経った頃だろうか。
 突然パカが立ち止まった。
 つられてミーナも立ち止まる。
 
 顔を上げれば、眼前には写真屋が建っていた。
 白を基調とした、垢抜けたな雰囲気の店舗。
 写真屋というよりは、フォトスタジオという言葉が適しているかもしれない。
 店舗の入口には、幾つかのサンプル写真が並んでいた。
 七五三の写真、入学式の写真、家族の集合写真。そして……
 
 
(あ……)
 
 
 ミーナは悲しげな表情で顔を伏せる。
 視線の先には、純白のウェディングドレスを纏った花嫁が映っている結婚記念写真も飾られていた。
 だが、すぐに気を取り直して顔を上げると、ミーナはパカに声をかける。
 
 
 
「……写真屋さんですか。
 現像してもらっている写真でもあるのですか?」
「いいや。入れば分かる。さ、中に入るぞ」
 パカは相変わらずの含み笑いを浮かべながら、中に入った。
 それに続いてミーナも中に入る。
 
 
「撮影室を抑えて貰っていた者だ。邪魔するぞい」
 出迎えた店員にそう断ると、彼女は我が家のように奥へと進む。
 その足取りは、撮影室の隣に用意されていた控え室の前で止まった。
 
「ほれ、ここが今日の目的地じゃ」
 パカが腕を組み、なぜか自慢げに頷く。
「ええと……一緒に記念撮影をするって事でしょうか?
 別に今日は特別な日では無かったかと思いますが」
「ほっほっほっ、まあまあ。
 いいからその扉を開けてみるが良い」
 ミーナの問いに、パカの表情はますます緩んだ。
 楽しそうに首を左右に振ってから、顎で控え室の入口を差す。
 
 
 
(まあ、開ければ分かりますか……)
 ここまで来たら、彼女の思惑がなんであろうと、もう乗っかるだけである。
 ミーナは彼女の指示のまま、控え室のドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開けた。
 
 そして……
 
 
 
「……やあ」
「ぬ、主人さんっ!?」
 思わず目を見開き、両手を口元にあてがう。
 部屋の中には、彼女の思い人の姿があった。
 どうしてここに……そんな言葉を発しようとして、それよりも気になる点が生じた。
 この日の彼は、普段とは決定的に違う所があったのである。
 
 
「そ、その衣装……」
「ははっ、どうです?
 ミーナさんはともかく、俺は似合っている自信がないけれど……」
 そう言いながら恥ずかしそうに頭をかく彼は、普段の野球着とは異なり、白のタキシードを纏っていた。
 気がつけば、彼のすぐそばのハンガーには純白の衣装が掛けられていた。
 その衣装は腰が細くくびれており、そこから半透明の生地が幾重にも伸びて、非透明な白を作り出していた。
 更に、胸元には花を象ったような刺繍が浮かんでいる。
 
 
「これって……」
「ん。……そですよ」
 恥ずかしいのだろうか、主人は僅かに顔を背けた。
 
「ウェディングドレス……。ミーナさん着たがってたから。
 あの日別れた後で、すぐにパカに連絡して協力してもらったんです」
 視線の中心をミーナから外しながらそう言う。
 
 
 
「あ……ああ……」
 一方のミーナは、言葉らしい言葉を漏らす事ができなかった。
 彼の言葉の意図する事は、一つしか思い当たらない。
 目尻に涙が溜まる。
 次の瞬間にはくしゃくしゃになりそうな顔を、口元にあてがった手で必死に覆う。
 
 
「ミーナさん」
 そんな彼女に、主人は一歩近づいて穏やかな声をかけた。
 今度は視線を外さず、真っ直ぐにミーナの顔を見つめている。
 
「……はい」
 一方のミーナも手を降ろし、涙を必死にこらえながら主人に視線を向けた。
 涙を抑えんとするばかりに、口はへの字に曲がり、顔は震えてしまう。
 その表情を自分で見る事は出来なかったが、さぞ酷い顔をしているのだろうという自覚はあった。
 
 こんな事ではいけない、と思う。
 こんな時に。
 こんな大事な時に笑顔ができないなんて。
 ほら、ちゃんと笑顔を見せないと。
 
 そう自分にそう言い聞かせると、顔から力が抜け、同時に涙がぶわと溢れ出した。
 それでも口元を緩める事には成功し、泣き笑いの表情を浮かべる。
 
 
 
 
 
「その……」
「はい……」
「……好きです。貴方の事が。
 今はまだ不安定な生活で、結婚には至らないけれど……
 今日これから着てもらう素敵なウェディングドレス姿、いつかもう一度、俺に見せて下さい」
 
「……はいっ!!」
 ミーナが主人に抱きついた。
「私も……私も、主人さんの事、好きです……大好きです……!」
 彼の胸元に顔を押し込み、わんわんと涙を流しながら、なんとか言葉を搾り出す。
 主人は、男性らしい大きな手で後頭部を抱き寄せてくれた。
 そのまま頭部を抱き寄せられた状態で、首だけを上に向け、彼の顔を見上げながら言葉を続ける。
 
「でも……でも、いいんですか?」
「何がですか?」
 温和な表情で尋ねる主人。
 ミーナは、震える口を必死に開き、言葉をひねり出した。
 
 
 
「そ、その……私なんかで……
 私、仕事にお金を消費していますから、すごくすごく、貧乏ですよ?」
「大丈夫、貧乏には慣れていますから」
 
「ほ……他にもあります。
 仕事ばかりする女だから、主人さんに迷惑かけますよ?」
「構いませんよ。むしろ、何かあったら手伝わせて下さい」
 
「……私の方が、年上です。先にお婆ちゃんになっちゃうんですよ?」
「良いじゃないですか。俺、年上好きなんです」
「あう……」
 
 
 
 彼はその間、笑顔を崩す事はなかった。
 ミーナは視線をウェディングドレスに移し、それからもう一度彼の顔を見上げる。
 そして、もう一つだけ彼に尋ねる。
 
「本当に、あれを私が着ても良いですか?
 あれを着て、主人さんの隣に立っても構わないですか……?」
 尋ねるというよりは、ねだるような口調。
 気分が高揚し、声が少し大きくなった気がする。
 主人とウェディングドレスという、二つの憧れを前に、ミーナの心臓は限界まで鼓動を高めていた。
 
 
「はい。……ミーナさんじゃなきゃ、駄目です」
 主人が、後頭部に回していた手を腰に回す。
 顔を少し下げ、二人の顔の距離が一層狭まった。
 
「主人さん……」
 ミーナはゆっくりと目を瞑った。
 更に強く彼に体を密着させ、少し背伸びをする。
 そして、二人の唇が近づき――
 
 
 
 
「おーい。扉開けっぱなしでいつまでやっとるんじゃ」
「「うあっ!?」」
 
 
 
 
 不意に掛けられた声に、二人は慌てて身体を引き離す。
 気がつけば、控え室の入口付近に立っているパカが、ジト目で二人を眺めていた。
 
 
「あ、あの、これは……」
 しどろもどろになるミーナ。
 
「あーあー、言わんでも良い。王子様に憧れる気持ちは余もよーく分かるからな」
 狼狽える様子が面白いのか、パカは口の端を緩めながら手を横に振った。
 それから、その表情のままで主人の顔を見やる。
「もっとも、ウェディングドレスの話が出るまで決心の付かなかったヘタレが王子というのは、なかなかに疑問じゃが」
「む、むう……」
  何も言い返せない主人であった。
 
 
 
「せっかくの良い所に水を差させてもらって申し訳ないが、
 利用時間が推しておるし、貧乏な主人に延長料金の支払いはきつかろう。
 ほら、ウェディングドレスの着替えを手伝って進ぜよう。
 主人は、はよ出ていかんかい」
「そ、それは一大事だな。手早く頼むよ」
 
 延長料金の言葉に、主人は慌てて控え室を出ていった。
 そんな彼の様子に、ミーナとパカは顔を見合わせてから、同時に吹き出してしまう。
 
 
「ふふっ……まあ、王子というには物足りないものがあるが、良い男じゃな。
 タキシード姿で驚かせるなんて、おとぎ話みたいな事をしおってからに」
「あはは。ええ、本当に。……あの、パカさん」
 ミーナは声を引き締め、服の袖で涙を拭った。
 
「ん、どうしたかの?」
 パカが首を傾げる。
 ミーナは唐突に、そんな年の離れた友人の手を取り、彼女の目を見ながら口を開いた。
「……今日のセッティング、ありがとうございます。
 私、とても幸せです」
 にこりとパカに笑いかける。
 それが伝播したかのように、パカもまた同じような笑みを浮かべた。
 
「色々と世話をかけたから、これくらいはの。
 ほら、早く着替えるぞい!」
「ええ、お願いしますっ!」
 
 
 
 
 
 二人はハンガーに掛かったウェディングドレスに手をかけた。
 
 ――武内ミーナの自室に、そのドレスを纏った彼女と、タキシード姿の主人が寄り添う写真が飾られるのは、それから間もない日であった。