|
|
|
|
とある朝の事。 通学中の主人公は、その途中で歩くのを止めて周囲を眺めていた。 人口が少ない日の出島でも、朝の出勤・通学風景ともなれば、それなりに人通りはある。 静かな島ながら活気を感じる時間帯であった。 「おっ、主人」
通学中の島岡武雄が、主人を見つけて声をかけてきた。 「よう、おはようー」 「ああ、おはよう。なんだお前、こんな所でつっ立って……」 手を振りながら近づいてくるが、その途中で立ち止まると、片眉を吊り上げて主人を睨みつける。 「ああ、そうだったなあ。彼女さんを待ってるんだったな。 モテる男は羨ましいねえ〜」 「は、はは……」 島岡のイヤミに苦笑しか返す事ができず、言葉に窮する。 だが、島岡も本気でイヤミを言っているわけではなかった。 なんだかんだで日頃は応援はしてくれていると、主人は感じている。 「ま、クラスでいちゃつかないだけ良識はあるか。 どうぞごゆっくり。俺は先に行くぞ」 「おう。学校でな」 「おう」 島岡が行ってしまった後で、主人は腕時計を一瞥した。 待ち合わせの時間から五分が過ぎている。 「今日は遅いな。……初めてかな? 天本さんが朝の待ち合わせに遅れるの」 独り言を呟く。 同時に、待ち合わせの相手である天本玲泉が歩いてくるであろう道に顔を向けるが、彼女の姿はまだ見えない。 ――主人公と天本玲泉が付き合い始めたのは、数週間前の事である。 交際にあたって、彼らには一つ気を使うべき事柄が浮上していた。 学校での振る舞いである。 流石に四六時中一緒にいては、周囲の目というものがある。 ただ、彼女の事は知らないが、少なくとも主人にとっては初めての彼女である。 少しでも長く一緒にいたい気持ちから、彼は朝の同伴通学を提案し、それは承諾された。 そんなわけでここ数日、二人は一緒に通学路を歩いていた。 しかし、今朝は天本が未だに姿を見せず、彼はこうして待ちぼうけているのであった―― 「ぬしびとさん!」 不意に名前を呼ばれる。 相当近くから聞こえてきた。 高音の、子供のような声である。 慌てて周囲を見渡すが、声の主と思わしき人物は見当たらない。 「ぬしびとさん、ここ!」 もう一度呼ばれる。 今度は声のした方向を認識できた。自分の真下である。 頭を下げると、赤いリボン付きの白いワンピースを着た、見知らぬ幼女が立っていた。 足元には鞄を置いている。 黒のボブカットが愛らしい子であった。 年齢は小学校低学年か、或いは幼稚園児かもしれない。 (どこの子だろ……どこかで見たような気はするけれど…… 俺の名前知ってるって事は、会った事あるのかな?) 幼児の顔を凝視しながら、見覚えがないか思い出そうとする。 「おまたせしました、ぬしびとさん」 そんな彼にはお構いなしに、幼児が言葉を続ける。 結局幼児の事を思い出せない主人は、やむなく膝を曲げて、目の高さを幼児に合わせながら口を開いた。 「ええと……ごめん、どこの子だっけ?」 「どこって、あまもとだよ?」 「天本?」 幼児の言葉を繰り返す。 天本といえば、彼はあの天本しか知らない。 (天本さんの親戚の子かな? そんな子いるって聞いた事ないけれど……) しかし、そう考えると、少し目が吊っている辺りが天本玲泉に似ている気がする。 髪型も天本玲泉と同じだから、なおさら似ていると感じるのかもしれない。 よく見れば、ワンピースも日の出高校女子夏服のデザインに酷似…… (……いや、酷似じゃない。そのまんま日の出高校女子の夏服だ、これ) 主人はまじまじと幼児の服を見つめる。 低身長の為、ワンピースのように見えて気がつかなかったが、確かに日の出高校女子の夏服である。 よく見れば、鞄も学校指定のものであった。 「……!?」 天本玲泉に酷似した少女の、日の出高校を連想させる出で立ちに、ふと主人の脳裏を一つの閃きが駆ける。 彼は、自分でも何を恐れていているのか分からないままに、恐る恐る口を開いた。 「もしかして、天本さん? ……天本玲泉、さん?」
あまもとれいせん 5さい
「そうです、あまもとです!」
「えええええええっ!?」 思わず立ち上がり、素っ頓狂な声で驚く主人。 「え? ええ? だ、だって天本さん、身長……」 「あさおきたら、こうなってたの」 幼児……いや、天本玲泉はそう言って肩を竦めた。 改めて聞けば、確かに声も天本玲泉のそれと類似している。 だが口調は外見相応にたどたどしい。 「朝起きたらって……ええっ?」 「ほら、あさってしんちょう、かわるよね。あれじゃないかな?」 「いやいや、朝は伸びる方だし、それに変わるってレベルじゃ……」 「ないかー。あはは、なんなんだろ」 元気に笑い飛ばされる。 言葉遣いも普段とは異なっていた。 (身長だけじゃなく、精神年齢も相応に下がってるのかな?) 主人は、唖然とした様子で彼女を見つめる。 「じゃあ、早くがっこういこ。あるくの、じかんかかるの」 「え、このまま学校行くの!?」 「うん。こうこうせいだから」 天本が髪を振りながら、上半身を直角に倒して大げさに頷く。 「いや、学校どころじゃないよ! うちの診療所とか、あるいは本土の病院とか……」 「こんなびょうき、聞いたことないよ。行っても分からないんじゃないかな?」 「うぐ……」 最もな指摘であった。 「ねえ、がっこう!」 天本が彼を見上げながら、もう一度登校をせびる。 少し頬を膨らませ、機嫌を損ね始めた事を主張していた。 なんとも子供らしく、愛らしい仕草である。 その上、恋人がそのまま小さく、丸っこくなったのである。 主人の頬は、彼女とは対照的に嫌でも緩んでしまった。 「あー……うん。 それじゃ、一緒に学校に行きましょうか……」 無意識のうちにあやすような言葉遣いになる。 それを受けた天本は、一層頬を膨らませた。 「やだな、なんか子どもあつかいみたい。こうこうせいなのにさ」 「ああ、ごめん。 ……それじゃあ行こうか」 言葉遣いを改める。 「うん」 天本は満足そうに頷くと、両手で鞄を持ち上げて歩き出した。 だが、小さな体にその鞄は大きすぎて、相当歩きにくそうである。 ひょいっ。 「あっ……」 「重いでしょ? 鞄、持つよ」 天本の鞄を取り上げた主人が、優しく笑いかける。 それを受けた天本はもう一度頬を膨らませかけたが、結局その息は吐き出された。 「……うん」 恥ずかしそうに、だが素直に頷く。 正義の愛らしさが振りまかれていた。 ……… …… … 結局、二人が校門を潜ったのはホームルームのチャイムが鳴った後であった。 小走りでクラスに駆け込むと、クラスメイトが一斉に振り返った。 担任のみゆき先生は、もう教壇に立っている。 ホームルームの最中だったが、みゆき先生だけは板書に熱中していて、主人達の登校に気がついていない。 クラスメイトは、主人とその傍に立つ幼児を視界に入れると、皆一同に動きを止めた。 その中で、真っ先に身動きを再開したのは山田平吉だった。 彼は突然立ち上がると、主人の肩を力強く抱いてきた。 「主人君! オイラ、主人君が犯罪者になっても友達でやんす! 藤田さんの所にいくなら付き合うでやんす!」 「君のその反応は予想通りだったよ」 ジト目で山田を払いのける。 「きゃー! 主人君の親戚の子なの?」 次に反応を示したのは神木唯だった。 二人に駆け寄ると、笑顔を振りまきながら天本を撫でる。 「わわ、うちの上の制服だけでワンピースになってる! なにこれ、かっわいい! あー、でも丈はもう少し長い方がいいかもねえ」 「いや、この子は……」 マシンガンのように捲し立てる唯。 一方の主人は、言葉を挟むタイミングに苦労する一方である。 「あれ、親戚の子じゃないの? じゃあ迷子を見つけてきたとか? でも主人君、学校に連れてきちゃあ……」 唯は苦笑しながら天本を眺め……次第に、その苦笑を疑惑の顔色へと変えた。 「……あれ? この子、どこかで見た事ある」 「うん。あったことあるよ」 天本が頷く。 天本を連想させる出で立ちの上、唯は主人とは違い、十年程前ではあるが、幼稚園児の天本玲泉を見ている。 彼女の疑惑の表情が、驚愕のそれに変わるのは時間の問題であった。 「……あっ! ぬ、主人君っ! この子、もしかして天本さん……」 「あい」 頷く主人。 面倒くさそうに頭を垂れながら、今朝の情景を思い出しつつ言葉を続ける。 「実は、かくかくしかじか」 「まるまるうまうま……ええええええっ!?」 案の定、唯は大声を張り上げて驚く。 それを皮切りにクラスメイトは皆席を立ち、主人と天本を取り囲んだ。 「あー、そういや小さい頃の天本ってこんな感じだったか」 「いやはや、この様な現象は初めて見ます……主人君、解決策に思い当たりは?」 「主人君、もしかしてこのまま幼児の天本さんと付き合うのでやんすか?」 「ちょっと、ちょっと! それは問題よ!? なにか問題起こして野球部が出場停止になったらどうするの?」 「困るぞ……主人……」 「キーッ! キキキーッ!!」 野球部の面々が騒ぎ立てる。 それを受けた主人公のキャパが限界に達するのは当然の事であった。
「うるさ〜い!」 両手で耳を塞ぎながら叫ぶ。 「さ〜い」 隣で天本がそれを真似た。 そして…… 「で、今週のテストの予定なんだけれど……」 そんな騒がしい生徒達を後ろに、みゆき先生はまだ板書に没頭していた。 気づこうよ……。 ……… …… … 結局、天本は普段通りに授業を受ける事になった。 生徒達から声をかけられ、やっと天本玲泉の異常を知ったみゆき先生の反応が『あら、かわいい!』では、問題とされるはずもない。 (ホント、どうしてこうなったんだろ……) 普段の授業を受ける事になったものの、その疑問は抱き続けている主人が、隣の席の天本を横目で見やる。 彼女の身長では机と椅子のサイズが合っておらず、かといって代わりの物もない為に、天本は必死に上半身を伸ばして黒板を見ようとしていた。 (……可愛い) 和む主人。 こうして、疑問を抱いては、すぐに彼女の愛らしさにその疑問を上書きされている。 「はい、じゃあこの問題、出席番号順に黒板に答えてもらうわ」 黒板に数式を書き終えたみゆき先生が、室内をざっと眺めた。 その中から天本の姿を見つけると、遠慮なく彼女の名前を読み上げる。 「じゃあ、天本さん」 「はいっ!」 天本は元気良く返事をすると、椅子から飛び降りた。 小走りで黒板の前に出て、チョークを手に取る。 問題はそこからであった。 「んしょっ! んしょっ!」 必死に背伸びするが、数式に手が届かない。 次にジャンプを始めたが、それでも届かない。 「あらあら」 みゆき先生は目を細めながらその光景を眺めていたが、やがて無造作に天本の腰を掴んで掲げた。 「はい。これで書けるかしら?」 「うん。先生、ありがと!」 天本が歯を見せて笑う。
(((((……可愛い))))) クラス全体が表情を緩ませた。 こうかはばつぐんである。 ……… …… … 昼休みになった。 これまで休み時間の度に、クラスメイトに囲まれていた主人にとっては、そろそろ一息つきたい頃合である。 そこで彼は、昼休みのチャイムと同時に、弁当を片手に天本玲泉を中庭へと誘い出した。 「ふぃ〜、やっと一服できるね。ああ騒がれちゃ疲れるよ」 天本の手を引きながら、中庭のベンチに腰掛ける。 眼前には花壇が広がっていて、昼食を取るには良い所であった。 「んー、あたしはへいきだったよ?」 同じく休み時間の度に囲まれていたはずの天本が、けろっとした表情で答えて、主人の隣に座る。 幼児とは実に元気なものである。 それから、二人して弁当をつつき、雑談に興じる。 ただ雑談と言っても、主な話題は、やはり天本の幼児化に関するものであった。 それに気がついた主人は、これでは休み時間と変わりないと内心苦笑したが、二人のペースで会話ができる分、疲労はなかった。 「じゃあ本当に何も思い当たりはないんだ」 「うん。こまったねー」 ちっとも困っていない様子である。 「天本さん、これからどうするつもり?」 「分かんない」 「分かんないって……ずっとこのままかもよ?」 「このままじゃダメかな?」 天本が主人の方を見ながら首を傾けた。 ダメである。 色々と問題だらけである。 「うん、駄目」 「そっかー、ダメかー」 「そうだ。セツさんには相談した?」 「ううん。おばあちゃん、きのうからじゅじつでいそがしかったから」
「じゅじつ?」 天本の言葉を繰り返す。 (じゅじつ……充実? 事実? なんだろ) やや考え込むが、これだと思われる単語が思い浮かばない。 不意に天本が主人の弁当箱に、箸で何かを放り込んだ。 主人が弁当箱に視線を落とすと、ブロッコリーが入っている。 「きのうはだいじょうぶだったけど、それ、なんか今はきらい。 ぬしびとさんにあげるね」 悪びれもせず、天本はえくぼを作ってそう告げた。 ……… …… … その日の授業が終了した。 日頃であれば、主人の学校生活の本番はここから。 部活の時間である。 だが、天本がこの様な状態ではそうもいかない。 帰りのホームルームの後、自然とクラスメイト達が集まり『とりあえず誰かが天本を自宅に送らねば』という話が出た。 そうなれば、選出されるのは一人だけであった。 「はい到着。ふいい〜っ」 日の出神社の鳥居を潜った主人は、背負っていた天本を地に降ろした。 途中までは天本も歩いていたが、流石に神社の石段はハードなので、主人が背負ってのぼった。 しかし幼児とはいえ、数十キロを背負って石段をのぼるのは、体育会系の主人でも楽な事ではない。 彼女を降ろすと、主人は大きく息を吐いて動悸を整えた。 「ぬしびとさん、ありがと!」 天本がぺこりと頭を下げる。 「いやいや……」 首を振る主人。 眼下の幼児を改めて見やる。 確かに言動は外見相応であるが、こうした礼儀正しい一面には、昨日までの天本の面影を感じる。 やはり、彼女は天本玲泉なのだろう。 実際に彼女が幼かった頃はこういう子だったのかもしれない、と思うと新鮮な気分であった。 (この天本さんが、どこでどう成長して、昨日までの落ち着いた女の子になったんだろ。 一度、天本さんの昔のアルバムとか見てみたいな) 「ねえ、ぬしびとさん?」 物思いにふけっている所に、天本から声を掛けられた。 主人ははっとして、頭を掻きながら返事をする。 「ごめん、ちょっと考え事してたんだ」 「かんがえごと……」 天本が力なくそう呟く。 この日初めて見せる儚げな口調であった。
「……あたし、やっぱりこのままじゃダメ?」 天本が不安そうに尋ねる。 何やら勘違いをさせたようである。 「いやいや、そういう事考えてたんじゃないよ」 努めて優しい声で返事をする。 「ほんと?」 「本当」 「このままでも、つきあってくれる?」 「付き合う付き合う」 そう答えながら問題発言であるとは自覚するが、その不安は外に出さない。 だがその甲斐あって、天本は表情を太陽のように綻ばせた。 「えへへ〜!」 それから、彼女は突然主人の足に飛びかかった。 まるでぬいぐるみを扱うように、頬をすり寄せながら両手で懸命に足を抱きしめる。 「!? あ、天本さ……」 流石に主人は狼狽した。 両手を彼女に掛けようとするが、途中で動きを止める。 こうして好意をぶつけてくる恋人を振りほどくわけにもいかず、かといって抱き返すのも気が引ける。 置き場を失った両手は、天本の頭上で所在なく浮く他無かった。
「あたし、うれしい!」 どれだけそうしていただろうか。天本は自ら、主人の足を離した。 主人の反応も待たずに、とてとてと神社に隣接する自宅へと駆けてゆく。
「ばいば〜い!」 天本が一度だけ振り返って、手をぶんぶんと振った。 それに釣られて主人も手を振り返す。 だがその頃には、もう天本は前を向いて駆けていた。 そうして、瞬く間に自宅へと消えてゆく。 迅速であった。 「………」 取り残された主人は、暫し天本の自宅を見つめていた。 両足には、まだ彼女の温もりが残っている。 やがて彼は、その温もりを思い返すかのように足に手を充てがってから、神社を背に歩き出した。 「……幼児も、悪くないな」 アウト。ゲームセット。 ……… …… … 翌朝。 待ち合わせ場所に佇む女子高生の姿を見つけた主人は、目を見開いた。 そこでは、女子高生の天本玲泉が恋人を待ち受けていたのである。 「天本さーん!」 駆け寄る主人。 その声に反応した天本は、微笑みを携えながら主人を迎えた。 「主人さん、おはようございます」 「うん、おはよ……で、どうしたの?」 早速尋ねる主人。 それだけで主人が尋ねたい事を悟った天本は、頬に手を当てて小さくため息をついた。 「それが、原因はお婆様だったのですよ」 少し重々しい口調である。 「セツさんが?」 「ええ。一昨日の晩から幼児化の呪術に取り組んでいたのですが、どうも暴発したようで、呪術の対象が私になったのです。 解消術のお陰で元に戻れましたが、お婆様にも困ったものです」 呪術。 聞き慣れない言葉ではなかった。 (そういえば、昨日昼休みに『じゅじつ』がどうのって……あれ、呪術の事だったんだ) 昨日の天本の発言を思い出す。 そして、なるほどそういう事だったのか、と膝を打つ……わけにはいかない。 本当は誰にかけようとしたのか。 何故そのような事ができるのか。 そもそも、何の目的でそんな呪術をかけようとしていたのか。 「で、天本さん、呪術って……」
「急ぎましょうか。二日連続で遅刻するわけには行きませんもの」 天本が笑顔で主人の言葉をかき消す。 『聞くな』と主張してくる笑顔である。 「あ、うん」 笑顔に気圧されて頷く。 だが、それとは別にもう一つ聞きたい事があった主人は、言葉を切らさない。 「それはそうと天本さん、昨日の帰り、別れる前の事なんだけれど……」 「い、急ぎましょうか」 天本はまた有無を言わさずにかき消した。
ただし、今度の天本の言葉は、照れを感じさせる裏返った声だった。 ……… …… … そして学校。 「はよ〜」 挨拶と共に、主人は無造作にクラスの扉を開く。 そこでは、先に登校しているいつも通りのクラスメイトの姿が……無かった。 「ああ〜ん! かみきがいじめる〜!」 「しまおか、うるさい! あんたが先にスカートめくったんじゃない!」 「うっき、うっきっきー!」 「すっげー! もりもと、このカブトムシどこにいたの!?」 「おなかすいたなあ」 「あ、ぼくおにぎりもってるよ。たべる?」 沢山の幼児がいた。 皆ガヤガヤとうるさく騒いでいる。 見覚えのある幼児ばかりであった。 「………」 「………」 非日常の光景に唖然とする二人。 ややあって、どちらからともなく気まずい笑みが溢れた。 「は、はは、は……」 「あ、あは、は……。お婆様ったら、また……」 天本はバツが悪そうに視線を逸らす。 日の出高校改め、日の出幼稚園の忙しい一日の幕開けであった。
|
|
|
|
|
|