こ〜こで一発みっずっき〜!
  (※  コラムです)
 
 
 滝のような汗と砂埃にまみれ、三鷹光一の顔は黒々と染まっていた。
 荒い息を落ち着かせながら、しかし、その名の如く鷹のように鋭い闘志溢れる眼で、
 前傾姿勢になりながら捕手のサインを覗く彼に、普段の飄々とした様子は見られない。
 
 日本シリーズ第七戦、3−1で迎えた九回裏。
 一死一塁でフルカウントに追い込まれた三番の主人公は、マウンドに立つ三鷹を強く睨みながらバットを構えた。
 
 今日の三鷹のフォークは一段と冴えていた。
 モグラーズの1点は失策絡みで取ったもので、打線はまだ一度も三鷹のフォークを捉えきっていない。
 ギリギリまで追い込まれたモグラーズファンの悲痛な応援。
 それが主人に求めるものは、明らかであった。
 
 三鷹がセットポジションにつく。
 一塁走者の畑山を一瞥した後、九回になってもなお躍動感のあるフォームから球が放られた。
 主人のバットはシャープなしなりでそれに反応を示し……
 そして、空を切った。
 
「「ああああああ!」」
 同時に、声にならない二人の咆哮がこだました。
 一人はマウンド上で、高々と腕を掲げる。
 そしてもう一人は、ありったけの力でバットをグラウンドに叩きつけるのであった。
 
 
 
 
 
 ベンチに戻った主人は、両手で顔を覆いながら項垂れる。
 泣いてはいなかったが、その体は小刻みに震えていた。
 
 この試合は絶対に負けられない試合であった。
 プロ野球選手の最終目標である日本シリーズ優勝。
 球団の存続が掛かった一戦。
 更に、主人には負けられない理由がもう一つある。
 
『あなたのお父さんの果たせなかった日本一の夢を、必ず叶えてみせます!』
 
 あの時、誓ったのだ。
 山口幸恵に、日本一になると。
 貴方の父の果たせなかった夢を果たすと。
 だが、結果は三振であった。
 三鷹のフォークを最後まで捉えきれなかったのだ。
 
 主人の心中は、凄まじい焦燥感に覆われていた。
 もう、負ける。
 試合が終わる。
 約束が……
 最愛の人への誓いが……
 
 
 
 ふと、球場が地鳴りのような声に包まれた。
 試合が決まったのかと、気だるそうに顔を上げる主人。
 だが、その視界に入ったのは絶叫するチームメイト達と観客であった。
 
 何が起こったのかを理解するのに要する事数秒。
 グラウンドに視線をやれば、水木卓が片手を振り上げてベンチの歓声に応えながら、小走りでホームインしていた。
 四番、水木卓。九回裏二死からの同点ホームラン。
 絶体絶命のピンチからの一転である。
 
 ベンチに戻ってきた水木は、チームメイトに祝福の殴打を受けながら、主人の前で立ち止まった。
「水木さん……」
 彼を迎える主人の声が途切れる。
 夢を繋いだ彼に感謝の気持ちを伝えたかったのに、言葉にならなかった。
 安堵するあまり、目じりには涙が溜まった。
 
「泣いてんじゃねえよ、馬鹿!
 試合はまだまだ、これからだからな!」
 水木は口の端を上げて頼もしげに笑った。
 バックで光るカクテルライトが、ただただまぶしかった。

はい、コラムなのに殆どがSSな今回です。
猪狩と三鷹って日本シリーズに出てきた気がするんですけれど、他の試合と混同しているかも。
 
今でも覚えています。
上記のSSの大部分は実際に私が経験した試合でした。
この時は幸恵さんを攻略していたのですが、日本一になるかどうかでアルバムが分岐するのですよね。
この試合を落とせば攻略できないという最終戦で、水木さんが見事に同点ホーマーを放ってくれたのです。
それが、もう本当に格好良かった。
その際に、脳裏にこんな妄想が浮かび上がったのですよ。
 
水木さんは私の好きなキャラクターですが、好きになった最初の理由はこれ。
ゲーム内で展開されるシナリオやキャラクター性ではなく、野球パートでの能力(結果)だったんですよ。
特に『女性絡みのピンチで颯爽と助けてくれる仲間』ってシチュ、私大好物なのです。
パワポケ1で智美ルートの『ワシの親父に会ってこい』とか、
パワポケ2で弓子の電話に出た時の『ポリスメンはいずこ』とか、ああいうの。
ちょっと話がそれましたか。そんなわけで、この水木さんの一発はツボに来ましたねえ。
それからどんどん水木さんというキャラクター自体に引き込まれるわけですが、それはまた別の話。
 
 
 
 
好きになる理由も色々。
そんなお話。
ちなみに試合はこの後負けた気がします。