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「主人さん、お加減いかがですか?」
「ちょうどいいよ。ありがとう〜」
「そうですか。終わったらお湯は抜いて下さいね」
「は〜い」
主人公は自身の身体を湯に沈めながら、浴室の外から声を掛けてくる天本玲泉に返事をした。
「ふぃ〜」
大きく息をつきながら、身体を更に深く沈めていく。
初めて入る天本家の浴槽は、身体を曲げても全身を湯に浸すのが困難で、お世辞にも大きいとはいえない。
加えて、ここは天本家。
交際中の彼女の家ではあるが、住み慣れた自分の家ではない。
だが……それでも、強い開放感を感じる事ができるのだから、風呂とは素晴らしいものである。
「……上がったら、どうなるのかな」
十分に身体を暖めて落ち着いた後で、そんな言葉を呟く。
この日、主人は天本家に泊まりに来ていた。
彼の父は研修会の為に数日島を離れており、また天本も数ヶ月前に祖母を亡くしている為に、今では一人暮らしである。
少々の……いや、相当の下心があった事は否めないが、それでも毎日一人では寂しかろうという気持ちから、
たまには天本の家に止まりに行っても良いか、と主人が打診した所、天本はあっさりと彼を招いてくれたのである。
無論、彼とて欲望しか持ち合わせていないわけではない。
天本と過ごす時は、彼にとって純粋に心地良いものである。
来訪と夕食それから談笑と、入浴までの時間は、特にやましい事を考えることも無く過ぎていった。
しかし、こうして落ち着けば別。
よらぬ事を考えてしまうのが男である。
「ここに天本さんが毎日浸かってるのか……」
浴槽を一瞥する。
毎日。
この日もそうである。
天本は、主人より先に入浴を終えていた。
無意識のうちに、裸体で入浴を楽しむ天本の姿を想像してしまう。
「い、いかんいかん!」
ぶるぶると頭を左右に振り、湯をすくって顔を洗う。
更にもう一度顔を洗おうと湯をすくった所で、ふと気がつく。
「……むう」
一呼吸。
「……天本さんの入った湯……」
ごくり、と唾を飲み込む。
そのまま熟考した主人であったが、結局、飲み込んだのは唾だけだった。
天本さんとえっちなことをするはなし 風呂から上がった主人に、期待していた展開は訪れなかった。
天本と一緒にテレビを見た後で、主人が持ち寄ったゲーム機で少し遊んだ頃には、日付を跨いだ。
天本が先に眠いと言い出して、それではという事になり、主人も用意された和室の布団に潜り込んだ。
初めて過ごす天本家の夜は、暗闇が深い気がした。
黒というよりも、群青色に近い暗闇は、和室のみならず、障子越しの廊下や、その先の屋外にまで浸透している。
多少は周辺に民家がある自宅と、山中に孤立する天本家では、どこか違うものがあるのかもしれない。
「……まあ、ちょっとがっつき過ぎてるよな」
照明を落として十数分もすれば、大分目が慣れてきた。
天井の木目を視線でなぞりながら苦笑する。
それから、もう眠ろうと身体をふすまの方に倒す。
「……!」
ぴくり、と主人の身体は震えた。
いつの間にか、障子の和紙に、座した人影が写っていた。
反射的に嫌なものを想像してしまうが、人影の頭部のふわりとした髪型には見覚えがあった。
まさか、と思う。
そう思いながらも、主人はおそるおそる声をひねり出した。
「天本、さん?」
上半身を起こしながら尋ねる。
「……はい」
澄んだ声が返ってきた。
障子が静かに開かれ……その裏には、純白の長襦袢を纏った天本がいた。
「え? あ、えっと……なにか?」
「はい。御用がありまして……」
困惑しきった主人とは対照的に、天本は落ち着いた様子でそう返事をする。
立ち上がらず、両手を畳みに付いて、座したままで主人ににじり寄ってくる。
主人は、そんな天本を見つめる事しか出来なかった。
初めて見る長襦袢は結構な薄地で、彼女の身体を纏っている部分は白が濁って見えた。
つまりは、彼女の肉体の色と同化して見えている。
強く心臓を高鳴らせながら、今度は天本の顔を見る。
艶やかな黒髪は、夜闇の中でも輝いているような気がした。
表情は無表情。
だが、切れ長の瞳は真っ直ぐに自分を見つめ返している。
何かの決意を感じさせる瞳だ。
そういった様相で、非現実的な衣装を纏って座している彼女は、普段とはまた異なる神秘的な美しさを醸し出していた。
「天本、さん?」
「………」
「う、うわっ……」
主人の目前まで来た天本は、無言で彼の上半身に圧し掛かった。
背中を布団に押し戻されながら、両手で彼女の肩を押さえる。
押し返すわけにもいかず、押さえているだけだったが、それだけで身体の熱気が伝わる。
薄生地一枚越しに触れる天本の身体は、幼児のように柔らかかった。
「主人さんが来てくれるものと、思っていたんですよ?」
「あ……いや、でも……」
直球で来られた。
ここまで来て他意もないだろう。
口ごもってしまう。
「……ほら、ええと、天本さん、巫女さんだし、結婚まで大事にするかな、とか」
巫女が純潔を守るものなのかどうか、彼は知らない。
とりあえず思いついた言い訳を口にする。
「……私も人間なのですよ?」
天本は主人の首に腕を回してきた。
長襦袢の襟が少しほつれて、彼女の胸元が主人に押し付けられる。
どきどきと鼓動しているのが分かる。
その鼓動は自分のものなのだろうか。それとも天本のものなのだろうか。或いは……
「愛があるのですから……情欲を遮るものはありません」
彼女の瞳が眼前まで迫る。
それは明らかに潤みを帯びていた。
「……俺、我慢が……」
そう言いながら顔を背けようとする。
だが、天本の腕がそれを阻止した。
「暖めて下さい」
「……天本さんっ!」
彼女の一言で、主人の理性のたがは外れた。
彼もまた天本を抱き寄せ、唇を重ねる。
意識せず彼女の口内に舌を差し込むと、彼女はそれに臆する事無く自身の舌を絡めてきた。
柔らかな唇の感覚と舌のねぶりあいを続けるうちに、窒息感と恍惚感が訪れる。
「ふはあ、っ」
「あふ……」
唇を離すが、彼女は抱き寄せたままだ。
眼前の彼女を見つめながら、小さな声で尋ねる。
「……怖くないの?」
「信じていますから」
天本は頭上でそう言って微笑んだ。
綺麗な髪が自身の顔に垂れてきて、少々こそばゆい。
彼女の身体をゆっくりと横に転がし、代わりに自分が上になる。
長襦袢はもう大分はだけていて、天本の小ぶりな乳房はどちらも露になっていた。
そこに手を触れると、天本の身体がぴくりと跳ねて反応を示す。
「あ……! はっ、あ、あふ……んん……ぁ……」
持ち上げるようにして乳房を揉みしだくと、天本が切ない声を漏らす。
初めて聞く天本の喘ぎ声は主人の情欲を掻きたてた。
欲望のままに、片方の乳房を口でくわえる。
「んっ……」
乳房を少し吸う。
「あっ……」
乳首を舌で転がす。
「あ、あはっ!」
今度は舌で弾く。
「あ、ふ、ああっ!」
責め方を変える度に、天本は官能的な声を漏らした。
主人もまた快楽を覚える。
直接刺激を与えていないのに、それだけでペニスが勃起している事が自覚できた。
ふと、彼女の性器はどうなのだろうと思う。
「触るね……」
そう告げてから、片方の手を彼女の股間に差し込む。
天本は何も返事をしなかったが、その手が股間に触れると、また天本の身体は跳ねた。
「気持ち、いいの?」
顔を寄せてそう尋ねる。
湿り気からそれは分かっていたが、それでも聞きたかった。
「……はい」
天本は嬉しそうにそう返事をした。
それから顔を寄せられ、天本の唇が頬に当たる。
「もっと……激しくしましょう?
貴方にも……そうしてあげたい……」
天本が身体を起こした。
彼女は主人の背後に回り込むと、そのまま背後から圧し掛かった。
「ぅぉ……!」
「主人さん……好き……好きよ……」
布団の上で四つん這いの姿勢を強いられる。
未知の行為を確認したい気持ちよりも、その先に待ち受けている行為への期待が強く、主人は抵抗しなかった。
「はふっ……はむ、あ、むうっ……」
「う、は……」
天本が背後から顔を寄せ、耳たぶに息を吹きかける。
直後に耳たぶを甘噛みされると、主人の全身から力が抜けた。
情けない声を漏らしながら肘を折り畳んでしまうが、天本の責めはなおも続く。
「は、む、ふうっ、はふ、う……」
「ふっ、あ、あっ……くう……」
同時に、天本がパジャマのズボンの中に手を入れてきた。
彼女の小さな手に握られ、ペニスが取り出される。
それだけで強い快感が走り、打ち震えてしまう。
「熱いですね……」
「う、あ……うっ……」
「ふふ……」
天本の熱気が篭った声が聞こえてくる。
ペニスをいきなり激しく擦られてしまい、全身に甘い痺れが駆け巡る。
そのまま快楽に押しつぶされたい誘惑に駆られるが、主人はそれに抗う。
「あ、天本さんっ!」
強引に身体を反転させ、天本の愛撫から逃れる。
「気持ち良くありませんでした?」
天本は少し寂しそうな声を出す。
「いや、そうじゃない……」
頭上で微かに首を傾げる天本に微笑んだ。
それから、彼女の腰に手を触れて、ゆっくりと自分の身体に腰掛けさせる。
「あ……」
「こっちで、しよう?」
「……はい」
天本が頷く。
自身のペニスも、彼女の下半身も、既に露になっていた。
隆々と勃起している所へ、おそるおそる彼女の身体を沈めさせる。
「は、ああああああっ!!」
天本は涙目になり、甲高い嬌声をあげた。
十分に湿っている膣への挿入は、主人のペニスへも破壊的な快楽をねじりこんでくる。
身体が、特に下半身が、燃えるような熱気に包まれる。
快楽に導かれるがままに腰を振りたい衝動に駆られるが、その前に自分にまたがる天本の反応を見やる。
「天本さん、痛くない?」
「あふ……う……」
天本は肯定も否定もしない。
だが、挿入したままで自身の上半身を倒して、顔を寄せてきた。
もう一度唇を求められているのだと、主人は察する。
「はむ、ふ、うっ……あふっ……」
「ふむ、む、くふっ……」
三度目の口付け。
唇を押し当てあうだけのキスだが、妙に心地良い。
はじめのディープキスのような、強い欲情と恍惚感こそなかったものの、安心感と満足感に浸される。
挿入した状態でのキスを数十秒堪能した後で、天本が先に唇を離すと、上半身を戻した。
「……動くね?」
「……はい」
天本の返事を確認してから、彼女の腰を抑えて、ゆっくりと腰を押し上げる。
「くふ……う……」
天本がくぐもるような声を出す。
その声に辛さが篭っていないのを感じると、主人は徐々に欲求を解放しだす。
「あ! あっ、はっ!」
腰の動きを速めると、天本はあられもない声を漏らす。
同時に膣の締め付けが強まり、ペニスが圧迫感と快感に浸される。
それをもっと味わおうと、主人の腰の動きは更に速くなる。
「あはあああっ! いいっ! 気持ちいいっ!!」
天本がはっきりと快楽を口にする。
主人の胸板に両手を当てて、彼女もまた腰を打ち付けてくる。
「く、うう、っ……」
「あんっ! あ、あああっ! 好き……主人さん、好きっ……」
「俺も……天本さん……玲泉っ!」
互いに快楽を与え合い、その動きがペースアップする。
いつしか主人の股間には、強い射精感が篭る。
「あっ! ああああっ! あっ、はあああっ!!」
天本が、もう腰の結び紐で繋がれているだけの肌襦袢を振り乱して腰を振る。
普段の清楚な彼女からは想像もつかない乱れようだった。
そんな観察の視線に気がついた天本は、主人を見つめながら口を開く。
「あ、ふっ……だって……愛し合ってるんですもの……セックス、してるんですもの……
身体に正直になって……あ、あああっ……開放するのが、当然……あああああっ!!」
「玲泉……!」
彼女のその言葉に、主人が弾ける。
「ふあ、ああああ、んっ!!」
打ち付けられる腰に宛がった手に力を込め、強く引き寄せると同時に腰を押し上げる。
天本もそれに応えて腰を打ち付けてきた。
貪りあうような行為。
本能を曝け出したその行為の前では、そう長く堪える事はかなわない。
「れい、せん……もう……!」
「あっ、い、いいっ! 公さん、きてっ……!」
互いのリビドーを確認する。
ただ、絶頂に達する事だけを考えて腰を振る。
その行為の先に、天本の快楽があった。
そして、限界に達した二人は……
「で、る……あ、あああああああっ!」
「はああ、んっ! あっ、あああああああああああっ!!」
本能の叫びと共に、快楽にまみれた二人の身体は大きく跳ね、二人の間には愛の証がまみれた。
………
……
…
「お、お水、汲んできます」
「あ、うん」
ひと段落した後、天本は早口でそう告げると、長襦袢を纏いなおして足早に部屋を出て行った。
冷静さを取り戻したとたんに、強い羞恥心が生まれたのであろう。
主人がそう思うのは、程度の違いはあるであろうが、彼もまた似た感情を持っていたからである。
「はふう……」
大きく息を吐き出して、乱れた布団の上で大の字になる。
想像よりもよほど疲労を伴う行為で、身体が重かった。
だが、それは充実感に浸された為に重いのだろう、と主人は思う。
幸福な時間だった。
「あ、あの……」
不意に廊下から声が聞こえた。
顔を向けると、障子の影から天本が顔だけを覗かせている。
多少距離を取っても、彼女の顔が真っ赤に染め上げられているのだと、はっきりと分かった。
「……これからも、公さんって呼んでも、良いですか?」
消えてしまいそうな声。
「……もちろんだよ。玲泉」
主人はにっこりと笑ってそう返事をした。
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